第24話  突き鍬               平成25年11月15日  

 庄内竿を作ったのは釣竿を作る職人ではなかった。庄内竿は通称青根笹(アオネザザ)と呼ばれ、この地方では筍が苦くて食えないことから苦竹と云われている。趣味としての釣竿を作る為、創意工夫をしたのは全て武士であった。竹を採るための工夫もその一つである。
 ご承知のように竹とか笹は、増えて来ると根が張って来て同仕様もなくなる。その為、根が張って良いとされる為土手の補強とか地震時の土割れなどの対策等にも使われている。
 通常鍬は畑を耕す為の道具である。そして突き鍬は、庭等の植木の根や自然薯を掘り採る為の道具である。通常畑を耕すための鍬は頭上から地面に向けて振り下ろす。それに対して突き鍬は深い根を採るために、両手で上に持ち上げてから思い切り地面に振り下ろし地中に刃先を突き刺す。
 庄内竿の特性として必ず根がついていなければならない。と云う事は、竹を根から掘り上げる時、必要な竹に傷を付けずにしかも周りの竹に邪魔されずに取ると云う事は、大変な労力が必要となる。そこで専用の突き鍬が、必要とされる事になる。突き鍬が現在の形に落ち着いたのは、何時頃だったのだろうか?通常の突き鍬と異なるのは歯の本体部分が長い事、竹の根が良く切れるように鋼の良い物が使われている。柄の部分は多少重い物が良い。重さを利用して上から振り下ろして竹の周りの地中深く突き刺して細根を切断する。
 芋根の時は地中浅いので比較的簡単に掘り上げる事が出来るが、通常ごぼう根とか槍根と呼ばれるものは地中深く根が潜り込んでいるので30cmから40cm時にはそれ以上目的の竹の周囲を掘り下げねばならない。周囲には竹が密生している中での作業だから、思っている以上の重労働である。特に庄内竿は、根の形も鑑賞の対象となると云うので出来るだけ形を損なわずに取る必要になる。苦労して採ったのに根の形が悪かった時は、疲れが一度にどっと出ることもしばしばである。
 歯は良質の鋼が良いと書いたが、其処は武士が造った物であったから、武士の魂と云われる刀を壊して突き鍬を作った者がいたと云う嘘のような伝説が残っているのも事実である。酒田市内の黒石釣具店の店主昭七氏の突き鍬はいつも磨かれていて鋼に錆び、刃こぼれひとつなくそれはそれは見事な物であったと云う。実際竹の根を掘った場合、刃先が石ころに当たる事が結構ある。立派な突き鍬を使った場合など特に根が深い場合、少し高く上に上げて地中に突き刺す。竹の根が切れるだけでなく刃先が石に当たり刃こぼれするのではないかと心配になった。
 自分が今使っているのは、何年か前に水族館の村上館長から頂いたものだ。それはトラックの鋼鉄製のバネ板を歯の部分に利用し、それに鉄棒を溶接でくっつけ柄としたものだ。その先をグラインダーで片刃にし鋭利に尖らす。以前はこのタイプの物が比較的簡単に作れる事から、このタイプの突き鍬が数多く造られた。

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写真は鶴岡・致道博物館所蔵の突き鍬)